驚きあきれるという意味の「あざむ」から来ていると言われる花が養徳院で満開を迎えています。とても美しい花ですが近づき触れようとすると葉に無数に生えた棘が鋭くて触れないことからこの名になったと言われております。「綺麗な花には棘がある」なんて言葉を思い浮かべると虚しくなるという方もおられるかもしれません。
前の養徳院の本堂の襖絵にアザミが描かれていました。養徳院の庭には住職が来る前からアザミが咲き乱れており、移築当時から咲いていたのかもしれないと考えてはおりましたが「何故アザミなんだ?」と常日頃より考えておりました。
「綺麗なものを手に入れたい、我が物にしたい」という思いは時代を問わず人々の心にあるものです。特に力を持つとこの思いは強くなります。物であれ人であれ、秀でたものを欲しがる人間の欲求は止まることを知りません。しかし実際に手に入れてしまうと、所有した自分がその物や人を従えた気分になり、いつしか支配したという思いが勝り、自分に酔ってしまう。憧れや好意を持っていた純粋な気持ちがこのように変わってしまってはただ醜い人間の欲望でしかありません。
綺麗だと思えば本来眺めているだけで幸せな気持ちになれるはずなのに、自分だけのものにしたいと花に触れようとするから棘が刺さるのです。私はアザミの花は真実の愛情の在り方を教えてくれる花だと思います。愛情とは見守ることです。「私が何かしてあげないと」と思える心は素晴らしいものですが、行き過ぎるとその人の成長の妨げでしかありません。その行き過ぎた行動が実を結ばなかった時、やがてそれは憤りに変わります。大切なのは見守ることです。アザミの花が養徳院の本堂に描かれている理由はそこにあるのではないかと勝手に私は思っています。

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